ずっと以前、近隣の町の沖合いに大型タンカーが座礁した海難事故がありました。
沿岸部の者には他人事ではありません。
なぜならば我われは海の幸をいただいて生活している海の民だからです。
特に座礁した船の町にはアワビ・サザエなど高級な貝類を採る海女たちの多い地区でした。
タンカーから流れ出した重油は、砂浜に押し寄せるだけではなく、それら生き物のひそむ棚にも漂着し、生息場所を台無しにしてしまうのです。
海女や漁師たちは大変な衝撃と怒りを覚え、行政にも訴えていました。
サルベージ船が来て、重油を取り除く作業なども行っていましたが、遅々として進まずまだるっこしい時間が流れていました。
そこで自分たちでも何とか海のこの汚れを何とかしなければ、と各々が柄杓やバケツなどを持ち、海へ行き、重油をすくって陸に上げる作業をしていました。
自分たちの生きるすべであるこの豊穣の海を何とか救いたい、その一心でした。
微々たる力であっても、自分たちの青い美しい海、生業を与えてくれるこのありがたい海に、元に戻ってほしい、との涙がこぼれるような熱意の表れでした。
アワビ・サザエ漁にも長く悪い影響を与えるであろう、と言われ、漁民たちは落胆していたのですが、その後数年もすると自然治癒力の力か、重油被害も何も言われなくなっていきました。